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2007年6月26日

W先生を知る。

先日、高校の担任だった、W先生から、分厚い封書が届きました。

突然だったので、何が届いたのかと、びっくりしました。

夫と私は、高校時代の同級。

つまりは、二人にとっての担任教師であり、結婚の際には立会人もして頂いた先生です。

卒業後、何度かご自宅に遊びに行ったこともありましたが、ここ何年かは、年賀状だけの挨拶で、すっかりご無沙汰してしまった中でのお便りでした。

先生は、10年ほど前、脳梗塞で倒れ、その後は自宅で療養の身にあるため、リハビリを兼ね、いつもパソコンで文章を書いておられます。

今回も、そうした書面がいくつか同封されていたのですが、それは、私たちに向けたものでなく、先生がこれまでいろいろな場面で、折に触れ書いた文章のコピーで、それを、夫と私にも是非読んで欲しい、というものでした。

先生が、母校を退職されるに当たって書かれた挨拶文。同僚に宛てて書いた手紙。先生のことを記した卒業生の新聞記事。

私は、先生がなぜ、突然今、これらを送って来られたのか、その理由がよくわからないままに読み進めました。

そして、全部読み終えたとき、自分でも思いがけず、なんとも表しがたい気持ちになっていました。

先生が同僚に宛てたと言う手紙の中には、”私のことだろう、と思われる生徒”についても書かれており、私が大学に進む際、当時、先生の立場から、陰でいろいろと心を尽くして下さったことを、初めて知りました。

また、別の同級生との間にあった、印象深いエピソードについても記されており、改めて、その同級生の人柄のすばらしさを知ることにもなりました。

その他、いろいろな思い出に触れながら、先生は、書面の中で、何度も”自分は教師の道を選んでよかった”ということを書かれています。

これほどたくさんのことを学び、たくさんの人に助けてもらうことができたのも、自分が教師であったからに他ならない、ということを繰り返し記されています。

先生が、今回、これを私たちの元に送ってきたことには、おそらく、特別な理由はないと思います。

きっと、これまでの教師生活、教師をやめてからの人生、そうしたものを、先生自身振り返る中、懐かしい生徒たちにも知ってほしかった、そういう理由だった思います。

でも、それとは裏腹に、私は、先生の書かれた書面の数々を読んだあと、なぜだかとても凹んでいる自分に気づきました。

なんと言ったらいいのでしょう・・・。

これまでの、自分の生き方の底の浅さとか薄さとか、そんなものを、改めて突きつけられたような気持ちになったのです。

高校時代、大学時代、会社時代。

振り返るとき、私は、いつも、今立っている足元に、しっかり根を張ろうとせず、漠然とした人生ばかりを歩んできました。

いつも、目の前に置かれた物事に、しっかり向き合わず、その先にあるものばかりに目を向け、囚われてきた気がします。

器用貧乏であるがゆえに、とりあえずの表向きを整えることが得意な分、簡単なところばかりを通ってきてしまったのだと思います。

そして、いつもそれがコンプレックスで、本当は、もっと深く、自分の足元に根を張れる何かをみつけたい、もっと心から、一つのことに夢中になれる自分になりたい、とそう思っていました。

今回、先生の手紙を読んで、高校時代には知る由もなかった、先生の、筋の通った生き方に触れ、自分の過ごしてきた毎日が、いかにとりとめもないものだったか、それを痛感した次第です。

でも。

これまでは確かにそうであったけれど、今の私には、”歌” があります。

偶然出会ったものにせよ、今の私には、心から好きだと思う”歌”があります。

そして、今度こそ、私にとって、ここが根を張れる場所になってくれるんじゃないかと、そう思っています。

もちろん、何一つ根拠はありません。

私には、音楽に関しても、他の事柄と同じよう、過去に蓄積してきたものがありません。

胸を張って語れる”好きな音楽や、好きな歌手や演奏家”というものもありません。

今はまだ、根っこはぐらぐらで、ちょっと押せば倒れてしまいます。

でも、先生が教師という職を通じて得たのと同じよう、私にも、音楽を通じて、たくさんの素晴らしい方々との巡り会いがあり、それはこれからも間違いなくずっと続いて行くと思うのです。

先生は、私が音楽活動をしていることを知りませんし、きっと想像もしていないでしょう。

なので、近いうちに、音蔵で歌った『大糸線の走る町』と『杏』の音源を送って、びっくりさせたいと思っています。

高校時代の、初々しかった私はもういませんが(笑)、その時代を見ていてくれた先生に、今の私の歌を聴いてもらえること。

それは、私なりの、ささやかな恩返しにもなるのではないかと思っています。

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