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2009年5月14日

書けない事実。

ノンフィクションライターの最相葉月さんいわく。

世の中には、書ける事実と書けない事実がある。

取材の際、”これは書かないで下さい”

と言われる内容の多くは、”取材の根幹”にかかわり、そこを書かねば嘘じゃないか、というようなものだとか。

取り上げていた、とある教育関係者のエピソード。

自著では既に触れている、ご本人の病気。その病気と現在の功績とは密接な関係のあることは紛れもない事実。

それでも、そのご本人は、取材の際最相さんに、”病気については触れないでほしい”ときっぱりと言い放ったのだそうです。

日を改め、具体的病名には触れない、などの案を提示し、ぎりぎりまで交渉を行っても、ついに首を縦に振らなかった。

最終的に最相さんが、この事実を受け入れ、断念するきっかけとなったのは、同行した編集者の言葉。

『自分では書けても、人に書かれたくないことが、人間にはあるのでしょう』

なるほど・・。

なるほど、その通りだと、私自身も痛感します。

人間の心、気持ちというものは、実に繊細かつ不可解で、理屈では説明のできない感情がたくさん渦巻いている。

自分がそうなら、相手もそう。

それがわかっているようでわかっていないのもまた人間。

言葉の持つ力は思いのほか大きくて、言う側と受け取る側では、その重みも深さも強さも違う。

とりわけ活字になった言葉には、無限の広がりがあるだけに、いろいろな意味で慎重にならなければいけないな、と改めて自戒した次第です。

最相さんが、先にエピソードの最後に付け加えていたこと。

”結局、あなたなら書いてもいい、という信頼を得られなかった私自身の未熟さなのである”

うーん!

これまたなるほど。

同じ内容でも、言われる(書かれる)人によって、すっと心に入ってきたり、拒絶したくなったり。

私にもそういう経験はもちろんあって、常々心に思っていた(だろう)ことを、ずばり言い当てられたような気がします。

人の心はやっぱり複雑。

複雑だからこそ、頑なだった気持ちをほぐし、自分の嫌なところ、ダメなところも包み隠さず見せてしまいたい、そんな誰かと出会えることは、素敵なことなのでしょうね。

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